夏のオホーツク、歴史ロマンの旅
うだる暑さの中、ひとときの涼をもとめて水べりでゆったりした時間を楽しむ「川床」は夏の風物詩。同じように夏には「夜の秋」という季題があります。堪え難く暑い日中とは打って変わり、早くも秋の気配を感じるほど涼しいと思わせる夜は、道東の夏ならではのこと。そんなどこかノスタルジーを感じさせる道東には、歴史を紐解くような大人の旅が似合います。今回は道東に遺された遺跡からアイヌ文化よりも古いオホーツク文化を巡る旅。古に想いを馳せる、味わい深い夏はいかがでしょうか。
1300年前の遥か昔、サハリンから道東の沿岸部にかけて、住み着いた民族がいました。海で狩りをする交易民族「オホーツク人」です。その存在が明らかになったのは1913年、理髪職人の米村喜男衛(きおえ)氏によるものでした。考古学を独自に学んでいた米村氏は考古学の権威であった鳥居龍蔵氏に出会い、アイヌ文化の存在を知ることとなります。アイヌ文化に非常に興味を抱くようになっていった米村氏は「実際に北海道を見てきてはどうか」という鳥居氏のひと言で、仕事道具であるバリカンと鳥居氏の著書1冊だけを手に北海道へ。米村氏の旅は当時の列車で行ける北海道の最終地点、網走へとたどり着きます。その網走川沿いには貝殻層があり調査を始めて見つかったのは、鳥居氏の研究室でも見覚えのある粘土紐を貼り付けた土器。鳥居氏に師事していた米村氏だからこそ、発見した土器がそれまでに見つかっていない全く新しい文化の足跡だと気が付いたのです。米村氏は最寄村で発見したことから「モヨロ文化」と命名。その後オホーツク海岸沿いに同様の痕跡が見つかることから「オホーツク文化」と名を変え、米村氏の孫・米村衛さんによって今も研究が続けられています。
オホーツク文化は本州で考えると古墳文化の後期から奈良・平安時代の前期に渡って栄えたもの。交易民族という特異性からか、カラフトや奥尻にまで文化の痕跡が見つかっています。オホーツク人の身長は当時にしては高い160cmで短い手足を持った寒冷地対応の骨格。文化の特徴として埋葬方法が挙げられ、土葬後、墓石替わりのように頭の部分にツボを乗せる風習があります。これはオホーツク文化独自のもので、世界でも似た例は見つかっていません。また海岸近くに住みアザラシを好物としながら、熊を非常に重視する文化があったそうです。住居の中からは熊の頭部の模型をはじめ、いくつもの熊の頭の骨が見つかっているのです。
熊を大切にする風習はアイヌ文化の特徴と似ているもの。オホーツク人は10世紀頃になって道内全域で栄えていた擦文文化と交わっていったとされています。しかし擦文文化に熊の風習は見つかっておらず、その後14世紀頃から栄えたアイヌの風習として蘇るのです。オホーツク文化はまだまだ調査中ですが、発見時と同じように誰かの情熱がその謎を解明していくことでしょう。
昭和11年に建てられた道内でも有数の歴史ある洋風建築。オホーツク文化の発見者である米村喜男衛氏が長年に渡り収集してきた約10万点の資料が展示されています。また、はく製も数多く飾られており、貴重な動物たちの姿を間近で観察することができます。
■住所/網走市桂町1丁目1-3
■電話/0152-43-3090
■営業時間/9:00~17:00(5~10月)、9:00~16:00(11月~4月)
■休館日/月・祝日
■入館料/大人100円、小中学生50円
オホーツク文化やアイヌ文化をはじめ日本で唯一、世界各地の北方民族文化を衣食住に分けて紹介する博物館です。約900点におよぶ展示品は見ごたえたっぷり。オホーツク文化を象徴する「モヨロのヴィーナス」や土器もこちらに展示されています。
■住所/網走市潮見309-1
■電話/0152-45-3888
■営業時間/9:30~16:30 ※7~9月は9:00~17:00
■休館日/月曜
■入館料/一般450円、大高生150円
世界で唯一オホーツク文化を専門に伝える施設。発掘から明らかになったオホーツク人の暮らしを模型や映像などで、解かりやすく楽しみながら学べます。展示は住居・墓・貝塚のテーマに分かれており、モヨロ貝塚の再現地層や墓地の展示などもあります。
■住所/網走市北1条東2丁目
■電話/0152-43-2608
■営業時間/9:00~17:00(5月~10月)、9:00~16:00(11月~4月)
■休館日/月・祝日
■入館料/大人300円、大高生200円、
小中学生100円
縄文時代の円形竪穴住居を思わせる施設の中には、常呂遺跡をはじめ近隣から出土した考古資料がずらり。旧石器時代に始まり、アイヌ文化に至るまでの遍歴を資料と共に紹介しています。またオホーツク文化の土器や大規模竪穴式住居の再現モデルなども展示中。
■住所/北見市常呂町栄浦371
■電話/0152-54-3393
■営業時間/9:00~17:00
■休館日/月・祝日の翌日
■入館料/一般280円、高校・大学生160円、
小中学生・高齢者無料
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