時代おくれでもいい。地域の造り酒屋として醸す。

DATE 2019.08.16

ふくつかさ、福を司るとは、なんと縁起の良い名でしょう。
幸福を呼ぶ酒として地域の人々に親しまれてきた地酒、福司のふるさとは釧路市。冷涼な気候風土のもと、大自然がろ過した自然水と北海道産の米で手造りされています。

「うちのような造り酒屋は、時代遅れかもしれません。しかし日本の伝統文化と技術を残すためにも続けていきたい」。福司酒造下部私意外者の三代目社長梁瀬之弘さん(58)の言葉です。
かつてはどの集落でも、神社ごとに神酒酒屋(おみきざかや)があり、晴れの日に奉納されたものでした。か細くなったその伝統を繋ぐためにも、梁瀬社長は「地域とともに歩む酒蔵」を貫いています

その思いは、地域色に富んだ商品を生みだしました。たとえば平成18年に登場した「海底力(そこぢから)」。その名のとおり、太平洋下に伸びる海底坑道で貯蔵したお酒です。釧路市に日本で唯一残る坑内掘炭鉱企業とともに、地域応援ができればと願っての取り組みでした。それにしてもトンネルで貯蔵とは…。発想の由来を聞くと、それは梁瀬社長は28歳まで建設会社の土木技術者としてトンネル工事に携わっていたのです。「経験上、トンネル内は光が届かず気温も一定であると知っていました。きっと酒の貯蔵に適していると試したところ大正解。まろやかなお酒に仕上がりました」。

また平成19年に誕生した「花華(はなはな)純米酒」も梁瀬社長の発案です。「北海道には上質の米がある。いい水もある。しかし酵母だけがない。ならば北海道産の酵母を探そうと挑戦し、試行錯誤の末にハマナスの花からお酒造りに適した天然酵母を取り出すことに成功しました」。希少な酵母で仕込む「花華」は、生粋の北海道生まれです。
90年以上続く銘柄から平成生まれのお酒まで、福司の商品は多彩ですが、梁瀬社長のお気に入りは何でしょう。そう問うと、「私は道産米と水だけで造った、純米酒が好きだなぁ」としみじみ。釧路には、福を味わえる地酒があります。

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