都度挑戦という名の新しい風が吹く…
早いもので私が、鶴雅の仕事をさせて頂いて十一年になります。社長が「馬に乗った女性像とか、そんな感じの作品を彫って下さい。阿寒湖側に設置したいのです」と話して下さったのがきっかけでした。
木材探しが始まりました。欲しいと思う丸太はなかなか見つかりません。弟子屈の材木商に、なるべく大きめの、丸太を探しているのですが、と頼みました。
しばらくして、「二股の大木が入ったが、どうだろうか」と電話がありましたので、早速見せて頂きました。見た瞬間、この木だと思い、さっそく奥春別の仕事場へ運んで頂きました。
水ナラの大木の、枝分かれした部分は、ちょっと見ただけでは、判らないほど太かったのです。
私は二股の木を使うことで、大きく見せることができるぞ、と考えました。今は大きな丸太が少なくなって、彫る材も限られています。
しかし、この木は、製材には向かなくとも、私にあたらしいイメージを与えてくれました。こうした大木と向き合うことが出来て、嬉しく思いました。
彫っているうちに出て来る日割れ、そしてゆがみに悩まされましたが、少しでも水分が抜けてくれるようにと、馬のお腹の部分に風穴をあけて彫り続けました。こうして出来上ったのが「馬と少女」です。
この作品を鶴雅に運んだ時、社長が「これは外におくのはもったいない」と云って下さりホテルの正面玄関を入った柱の前に設置されることになりました。
制作者として有難く、感激で胸がいっぱいになったことを覚えています。
二股の大木を使って制作した作品は、他に六点あります。中でも一番手間と時間がかかったのが、木で木を彫った「夏の思い出」という作品で、葉っぱの細かい部分が多くて大変でした。様々な表情をした、可愛い子供達が木の周りに立っています。この作品は鶴雅リゾートのレストランに設置されました。こうして書きますと、彫った当時のことがなつかしく思い出されます。
昨年十一月、こんどは鄙の座に小動物のモモンガを彫るようにと、岡部女史が申されました。私にとっては新たな挑戦です。モモンガは夜行性で警戒心が強くめったに人目にふれる事のない動物です。厳寒期の餌のない時期のモモンガを撮影した写真集などを参考に、様々なかっこうのモモンガを彫りました。彫っているうちに面白くなって、二ひきで巣穴に入ったモモンガが、巣から出られなくなって大暴れしている様子など、楽しく彫ることができました。
鄙の座の内装を担当された岡部女史に、柿渋について教えて頂きました。柿渋は知ってはおりましたが、使ったことはありませんでした。これもまた、私の作品に新しい風を吹きこんでくれました。
また、うれしかったことは、「瀧満(たきみつる)」という、私の名前からとった部屋をつくっていただいたことです。
ほかにも鄙の座には、ホテルの名前を象徴する、いごこちのいいベンチと、その場を見守る大きなシマフクロウも彫らせて頂きました。玄関を一歩入ると森の中にいるような、安らかな気持ちになる、そういった空間づくりのアイディアをはじめてうかがったときは、身のひきしまる思いでした。
社長を中心にみなさまで一致団結して築き上げた信頼が、最優秀のホテルと云う栄誉を獲得されました。
益々の御発展をお祈りいたしております。